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しながわのチカラ 古代から未来へ続く道「品川道」

ナレーション「品川沖で海水をくむ、品川海上禊祓式(みそぎはらえしき)。お浜降りとも呼ばれる神事を行うのは府中の大國魂神社と荏原神社の神職達である」 権禰宜猿渡惇氏「平安時代の前九年の役。源頼義、義家公が戦勝祈願のさいに大國魂神社にお参りするのですが、身体を清める時に品川から海水を持ってきて清めたといわれる。昔から大國魂神社、荏原神社を通じて、品川で海水をくんでいたと思われます」 ナレーション「品川沖で汲んだ海水を荏原神社の神前に供え、祭りの成功を祈願する。そして、品川から大國魂神社に持ち帰った海水は禊用の水となりくらやみ祭りの本番を迎えるのである。かつて、お浜降りの神事に使われた道は品川道と呼ばれていた」 ナレーション「さて、こちらは中延5丁目にある天保二年の道標。お浜降りとは関りのないはずだが、道標には品川道と記されている。いったい何故なのだろうか。古の歴史を後世に伝える道。品川道を探る」 ナレーション「かつて、お浜降りに使われた品川道。江戸時代の記録には、大國魂神社の神職達が貴布禰社、いまの荏原神社に向かう道中、目黒不動の茶屋に立ち寄ったとある。南品川在住の松岡さん。松岡さんはお浜降りの神事を裏方で支えている一人だ」 松岡さん「私の家が江戸時代から続いていますので、江戸時代からお手伝いさせて頂いているのです。お浜降りの先導役でお手伝いできるのは光栄です」 ナレーション「目黒不動で休息した当時の神職達が荏原神社に向かうために使った道も幾つかあるだろう。お浜降りの道を松岡さんとともに検証してみよう。一つは東急不動前駅の商店街を通る道。江戸時代から残る古道である。古道を南東方向に進むと氷川神社がある。江戸時代は桐ヶ谷村の鎮守(ちんじゅ)であった。氷川神社から、さらに南東に向かいたいのだが、残念ながら、ここから先は首都高速や鉄道などに阻まれ、古道を辿ることはできない」 ナレーション「目黒不動に戻り、もう一つの候補を辿ってみよう。石古坂と呼ばれる道を進むと、緑豊な林試の森公園がある。そこから南に足を運ぶ松岡さん。後地の交差点が見えてくる。後地交差点に程近い場所にある朝日地蔵堂。寛文7年につくられ、それ以来、この地で旅人を見守ってきた」 松岡さん「少し斜めの交差点は昔の地形にあった道だと感じる」 ナレーション「さて、お浜降りの道だが、かつて地蔵の辻と呼ばれた後地交差点を東に曲がり、百反通りへ。700メートルほど進んだところで南側に曲がる。こちらの古道を進むと、貴船神社がある。かつて、名称が貴布禰社だった荏原神社は、もともと、この場所にあったと伝えられている。境内には文政11年の道標がある。もとは居木橋村と枝郷(えだごう)三木の境にあったとされている」 ナレーション「貴船神社を出た松岡さんは三木小学校の前を東に向かう。ここから東は鉄道に阻まれてしまい、いまは進むことができない。江戸の頃は、その先の道は、いまの広町一丁目へと、つながっていた。そのまま東に進むと、天竜寺の煉瓦塀を見ることができる。古道は天竜寺の前でゼームス坂通りと合流する。今回、松岡さんが、お浜降りに想定した道は、品川宿の人たちが目黒不動に向かう目黒道とも呼ぶことができるだろう。その道のりは約4.8キロメートルである」 　　　　　　　 松岡さん「昔の道の方が最短距離かなと感じた。一日がかりで大國魂神社から来る昔の（江戸時代の）神事は大変だったと思う」 ナレーション「府中市にある大國魂神社。この大國魂神社の周辺は奈良時代に武蔵国(むさしのくに)の国府(こくふ)となった。中枢の役所群があったとされるのが国衙(こくが)である。武蔵国国府と港湾都市として栄えた品川をつなぐ道が、品川道とされている。これは品川区の御殿山で発見されたという常滑の大甕。一方、府中市宮町でも常滑の大甕が見つかっている。どちらも中世の頃につくられたもので、いまの愛知県常滑市から運ばれてきたものである。国府と品川道の関係について、品川歴史館の北原館長に伺った」 北原館長「東海地方などの産物を武蔵国の内部に届けたり、逆に農山村でできるものを外に運び出す道だったと思う。ルートがいくつかあるというところが、この品川道の特徴でもある」 ナレーション「それでは大國魂神社周辺の品川道を探ってみよう。中世の品川道は京所(きょうず)道(どう)とつながっていたのではないだろうか。残念ながら中世の道は途中で途切れ、いまは辿るのが困難である。大國魂神社の北側にある旧甲州街道は慶安から寛文年間頃に整備されたといわれている。お浜降りでも、この道を使ったことだろう。旧甲州街道を京王線東府中駅に進むと、駅の東側に品川街道という名の道がある。この道が中世の頃にできた品川道といわれている。品川街道に入って約500メートルの場所にあるのが常久一里塚。江戸時代初期のもので、ここが日本橋から七里目にあたるようだ。この古道は、江戸時代初期の頃、甲州街道に位置づけられていた」 ナレーション「さて、南東方向に一気に飛ぶとしよう。品川道は雪ヶ谷付近で中原街道に合流。1キロメートルほど先にあるのが洗足池。洗足池を越え、洗足(せんぞく)坂上(さかうえ)の交差点から商店街に進むと品川道とされる古道がある。古道はやがて、品川区と大田区の区境となり、見えてくるのが中延みちしるべ防災広場。新しい道標が品川道の歴史を未来に伝える役目を担っている」 ナレーション「さて、こちらは北品川で古書店を営む田中さん。趣味で街道歩きを30年以上も続けている。田中さんが訪ねたのは天保2年の道標。品川区内で品川道と記された貴重な道標である。さあ、ここからは田中さんとともに品川道をめぐってみよう」 田中さん「基本的に道というのは目的地の名前をつけることが多い。こちらから品川に行けば品川道。逆に品川からこちらへ向かえば、中延道という言い方もある。品川は江戸時代は大きな宿場だったので、品川を訪ねる人が多かった」 　　　　　　　　　　　 ナレーション「西大井駅に近づくと、三差路がある。この道を東側に向かうと、滝王子通りになる。滝王子通りは大井警察署入口の交差点で池上通りとつながる。池上通りは、かつての池上道。池上道を北に進むと大井の三ツ又に出る。この場所にあるのが三ツ又地蔵。古くから、この地で、行き交う人たちを見守ってきた」 ナレーション「三ツ又地蔵の左右にある道は、どちらも古道。まずは地蔵の右側に進む。こちらの古道は商店街になっている。商店街を抜けると踏み切りがある。品川道踏み切りという名で、品川道の名前が残っている。踏み切りの先は池上通りに合流する。池上通りは江戸の頃、青物の市が開かれた青物横丁につながっている。当時は野菜を運ぶのに、この道が使われたことだろう」 ナレーション「さて、大井の三ツ又に再び戻るとしよう。三ツ又地蔵の左側の道。こちらを進むと、大井町駅に阻まれてしまう。そこで、駅の東側に行くと、かつての池上道に、つながる古道が残っていた。この道には商店が建ち並び、賑やかである。古道を抜けると、ゼームス坂通りにつながる。ゼームス坂通りも、かつての池上道であった。この道を進むとお浜降りの道ともつながる。中世の頃は、この道がお浜降りに使われた可能性もあるだろう」 ナレーション「さて、もう一つ、品川道の候補がある。西大井駅から大井町駅につながる光学通り。江戸の頃は稲毛道と呼ばれ、当時は主要な道だったようだ」 田中さん「品川道は古地図を持って歩くと楽しめる。雰囲気が古い町並みだと思えるところがある。雰囲気を感じながら歩くと品川道は良い道だと思う」 ナレーション「古代から中世。そして、いまも交通の要である品川。品川へつながる道、品川道は古の歴史を未来に伝える道でもある」