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【2020年度 東京音楽大学シンフォニーオーケストラ定期演奏会】 2020年12月9日(水)19:00開演 東京芸術劇場コンサートホールにて収録 Tokyo College of Music TCM Symphony Orchestra (Orchestra "S") Tokyo Metropolitan Theatre 9 December 2020 ************************** 0:00:00 L.v.ベートーヴェン/バレエ音楽「プロメテウスの創造物」 作品43 第1幕 序曲 L.v.Beethoven/Die Geschöpfe des Prometheus, Op.43. Ouverture 0:08:09 L.v.ベートーヴェン/劇音楽「エグモント」作品84 序曲 L.v.Beethoven/Egmont, Op.84. Ouverture 0:18:30 R.シュトラウス/交響詩「英雄の生涯」作品40 R.Strauss/Ein Heldenleben, Op.40 指揮:尾高 忠明/Conductor : Tadaaki OTAKA 演奏:東京音楽大学シンフォニーオーケストラ Tokyo College of Music Symphony Orchestra (Orchestra "S") ************************** ≪プログラムノート≫ ♦ベートーヴェン/バレエ音楽「プロメテウスの創造物」 作品43 第1幕 序曲 ベートーヴェンは、バレエの踊り手であったサルヴァトーレ・ヴィガーノから作曲の依頼を受けて、「プロメテウスの創造物」を作った。ヴィガーノは大変な人気を博した舞踏家であった。彼は1799年から1803年にかけてウィーンに滞在した。彼にとって、これは2度目のウィーン訪問であった。その時に、ヴィガーノはベートーヴェンと出会い、ヴィガーノ自らが新たに台本を書き、自身が主役を演じるバレエ作品に音楽を付けるよう、ベートーヴェンに頼んだのである。 ヴィガーノが書いた台本は今日失われているが、その内容はギリシア神話に出てくるプロメテウスの物語とは大きく異なり、およそ次のようなものであったと考えられている。天上の火を盗んで人間に与えたとされる神プロメテウスは、最初の人間として男女を一人ずつ作り、楽器の女神であるエウテルペたちはこの二人を教育した。悲劇の女神メルポメネは、この人間に悲しみを教えるためにプロメテウスを殺すが、彼はやがて生き返ることになる。男女の二人は、これらの教育によって理性や感情を備えた人間に育っていった。 「プロメテウスの創造物」は、ベートーヴェンが生涯に作曲したバレエ音楽2曲のうちの1曲である。その初演は、1801年、ウィーンのホーフブルク劇場で行われた。この曲は、序曲と導入曲に加えて16曲から成り立っているが、今日では序曲のみが演奏されることが多い。 序曲は、導入部、主要部、結尾部の三つの部分に分けることができる。このうち主要部はおおまかにソナタ形式に基づいており、中心となる二つのメロディー(第1主題と第2主題)が聞かれる。序曲の導入部はオーケストラ全体による力強い和音で始まる。その後、一瞬の間を置いて、ゆったりとした音楽に移る。主要部に入ると、ヴァイオリンが細かい音から成る速い旋律(第1主題)を奏で始め、そこに他の楽器も加勢して大合奏となる。音楽の雰囲気ががらりと変わるのは、フルートによって奏でられる次の旋律(第2主題)が現れる部分だ。ここでは、オーボエ、クラリネット、ファゴットなども加わった管楽器の音色を楽しむことができる。再び、ヴァイオリンが第1主題を取り戻し、その後には、フルートによる第2主題も戻ってくる。クライマックスである結尾部に至ると、オーケストラは力強く終わりに向かって突き進む。 ♦ベートーヴェン/劇音楽「エグモント」作品84 序曲 1809年、ウィーンはフランス軍に占領されていたが、ウィーンの宮廷劇場の支配人であったヨーゼフ・フォン・ルクセンシュタイン・ハルトルは、劇場を救うための資金を調達する計画を練った。その興行の核を成す演目は、シラーの『ヴィルヘルム・テル』とゲーテの『エグモント』であった。ハルトルは、これらの舞台劇に音楽を付けようと考え、作曲をベートーヴェンとアーダルベルト・ギュロヴェッツに依頼した。ベートーヴェンはゲーテの作品を任され、初演は1810年に行われた。ベートーヴェンは序曲の他に9曲を作り出したが、今日では序曲のみが独立して演奏されることが多い。 ゲーテの『エグモント』は、実在したオランダ独立運動の英雄ラモラル・エグモントを題材にしている。戯曲の舞台は、スペインの圧政に苦しむ16世紀半ばのオランダであり、史実の通り、エグモント伯は独立運動を進めるが、そのために捕らえられ、死刑を宣告される。その一方でゲーテは、エグモント伯を愛する女性クレールヒェンを登場させる。彼女は伯爵を救い出そうとするが、その試みは全て失敗に終わり、絶望して毒をあおり、自害する。エグモントが断頭台に向かう際、彼の前にクレールヒェンの幻影が現れ、彼女はエグモントを祝福する。この戯曲は、エグモント伯の勇気や正義だけでなく、死によって成就する愛を扱った悲劇となっている。 ベートーヴェンが作曲した序曲は、序奏部分と主要部分、終結部分の三つに分けられる。序奏部の始まりはとても厳かで悲壮感に満ちており、これから展開される悲劇を予感させるのに十分である。 ややあって、音楽は明らかに速度を増す。そこが主要部分の始まりである。この部分はソナタ形式に基づいている。ソナタ形式では、二つの主要な旋律、つまり第1主題と第2主題が現れる。主要部分に入った直後、チェロが不安や悲しみを連想させるような第1主題を奏でる。やがて、そのような悲劇的な雰囲気が和らぎ、若干明るさを伴ったような場面に至る。そこでは、弦楽器が力強く演奏し、それに管楽器が優しく答えている。これが第2主題である。これらの二つの主題は、その後も幾度か聞かれる。 曲も終わりに近づくと、オーケストラ全体が一緒になって、同じ一つの強力な鋭いリズムを刻み、緊張は頂点に達する。その最後に、止めを刺すかのように、ヴァイオリンだけが切るような鋭い音を出す。一瞬の静寂。エグモントの死刑が執行された瞬間であろうか。その後、管楽器が奏でる非常に静かな音楽は、さながら弔いの音楽のようにも聞こえる。 しかし音楽は一変して、それまでにない程に明るくなり、力強く終わりに向かって突き進む。終結部分である。そこから連想されるのは、エグモントの正義の勝利、彼とクレールヒェンの愛の成就であろう。 ♦リヒャルト・シュトラウス/交響詩「英雄の生涯」作品40 「英雄の生涯」は、1899年にドイツのフランクフルト・アム・マインにて、作曲家自身の指揮によって初演された。この曲は、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団とこの楽団の常任指揮者であったウィレム・メンゲルベルクに献呈されている。 「英雄の生涯」は交響詩というジャンルに属している。リヒャルト・シュトラウスはこの作品を初演するまでに、交響詩に限っても、すでに「ツァラトゥストラはかく語りき」、「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」、「ドン・キホーテ」といった名作を世に送り出していた。シュトラウスは、交響詩の一隆盛期を築いたとされている。このことは「英雄の生涯」の至る所に、オーケストラの種々の楽器を存分に駆使した表現が見られることからも十分に理解できる。 シュトラウスが「英雄の生涯」を作曲するにあたり、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」を意識していた可能性は十分にあるといえよう。しかし、ベートーヴェンはナポレオンを讃えて「英雄」を作ったのに対し、シュトラウスの「英雄の生涯」での英雄は、シュトラウス自身となっている。シュトラウスは30代半ばにして、「英雄の生涯」という自叙伝を発表したのである。 「英雄の生涯」は初めから終わりまで途切れなく演奏されるが、形式の上では六つの部分に分けることができる。この曲は拡大されたソナタ形式と解釈でき、六つの部分はそれぞれ順に、おおまかにソナタ形式の第1主題提示部、推移部、第2主題提示部、展開部、再現部、結尾部になっている。 力強い音楽で始まる第1部分は、強い精神の持ち主であり、堂々とした風格を備えた英雄の姿を描いている。英雄の敵が登場する第2部分では、批評家などによる嘲笑、無理解や批判がフルートをはじめとする楽器によって表現される。第3部分では、独奏ヴァイオリンの調べにのって、優しく愛情深い伴侶が現れる。第4部分は戦いでの英雄を題材としており、トランペットのファンファーレが戦いの始まりを告げる。英雄の業績を示す第5部分では、シュトラウスがすでに作曲していた様々な作品が引用され、披露される。第6部分は概ねゆっくりとした音楽であり、イングリッシュ・ホルンの旋律は、田園に響く、牧童が吹く笛の音である。そこで、引退した英雄は平安のうちに余生を送っている。 解説:東京音楽大学 講師 新林 一雄 主催:東京音楽大学( https://www.tokyo-ondai.ac.jp/ ) 後援:豊島区